それでもきっと、今日、僕等は何かの弾みで歩いていく 4



きっと僕は、そうしたかったから、
母さんも、師匠も、2人とも揃いの紋章をつけた服を着込んでいる。
知らない人も何人か写っていた。
けれど、これが何の写真かは、分った。
写真に写る彼等は、政府の人たちと、それから大統領だ。
この紋が政府を表す事も母さんに教えてもらっていたし、
大統領の顔も、母さんが持っていた本に載っていたから。

師匠も、政府の役人?…だったんだ。
大して驚きはしなかった。
寧ろ、この街に逃げ込んできた母さんを匿ったのも説明がいく。
師匠がこんな、被虐街に住んでいるのは…
何か大きなミスをしたからだろうか。

ぼんやりと、そう思う。
そして考えながら、自分が食い入るように、
その写真を見つめている事に気がつく。

母さんが、僕を利用して、…送り込もうとしていた…場所。
けれど僕は、その事実を聞いても、内心ショックじゃなかった。

だって、僕が一番望んでいたことは、





「クロウ?いるのか?」
「し、師匠!」
慌てるように写真をポケットにねじ込めば、
正面入り口のドアを開けて入ってくる師匠の姿が見えた。

「何だ?また悪さしてたのか?」
「ま、またじゃないですよ!その、ちょっと、朝食を拝借しようとして、」
机を飛び越え師匠の方に行けば拳骨が来るだろう。
そう予測し、師匠の机の横で立ち往生すれば、
師匠は軽くため息をつき、こいこい、と手招きをする。

怒られるのかと思ったけれど、どうやら違うらしい。

師匠のベルトには何かの束が抱えられていた。
「何ですか?それ?」
「あー…ほら、色々手続きとか、裏の、まぁ知り合いに作ってもらったのとか、」
相変わらず主語を言わない師匠の言葉を解するのは難解だ。

放り投げてくるので受け取れば、そこには何やら几帳面な字面が並んでいる。
「これ、何ですか…?」
よくよく見れば、それぞれの紙に生年月日や一親等の情報などが書かれている。

「ん?お前、ここを出て行くんだろ?
取りあえずお前っぽい経歴の戸籍を、幾つか偽造してきたから」
「ぎ、偽造って!!それに僕はここを出て行くなんて一言も…!」
「出て行かないのか?この街で、一生、腐ったように過ごすのか?」
静かに問われ、僕は黙り込む。
師匠は、僕が言う前から、僕が言いたいことを全部分ってるかのようだ。

けれど、

「師匠、僕も、師匠に言いたいことがあるんです」
言ってしまえば、師匠はどんな顔をするだろう。

それでも、母さんが死んだ時も、
師匠に一般市民として街で暮らせといわれた時も、
姉さん達に一緒にシティで暮らそうといわれた時も、

ずっとずっとわだかまりがあった。

そう、それは、きっと僕が、そうしたかったから、



――― 4 ―――


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