それでもきっと、今日、僕等は何かの弾みで歩いていく 6



面倒な感動なシーンはかっ飛ばす。それが師匠
「で、何だっけ?お前が政府で革命でも起したい話の続きか?」
「…ッぅえ!?」
噴き出しかけたスープを何とか口の中に押し留め、
師匠を見上げれば相変わらずの飄々とした表情。

「…あ、あの、何か色々展開すっ飛ばしてませんか…?」
「展開ってなんだ…。
んな話のセオリーみたいなもんに従って勧めても面白みがないだろ」
「はぁ……、って、あ…師匠…」
何食わぬ顔で会話をし続けるのでつい引き込まれそうになった。

「……その、政府の…何とかって…僕をカマ掛けてるんですか?」
「なんでそう思う」
「だ、だって、普通はその、僕が、「何故その事を!」
って驚いて言ったら、師匠はクールに「フ…やはりな、」とか言うパターンで、」
…言ってて、何だか自分が変な事言ってるんだろうな、と思えば、
やはり師匠も呆れた顔でこちらを見る。

「お前さ、」
「…はい」
「……変な小説の読みすぎじゃないか?んな面倒な事何で俺がしなきゃならん」
「…確かに、そうですよね」
師匠の性格から考えてそれはあり得ない。
少なくとも仕事中で無く、僕の前で素でいる時は。

「……その、革命とか、そんな大それた事は考えてはいませんが…
何でその、僕がそう考えているって分ったんですか?」
堂々巡りにしても仕方が無い。
素直にそう切り出せば、師匠は小さく笑う。

「そうだな。
強いて言うなら、お前の中にある、
その気持ちを突き動かしているものが何かを、俺は分るからだ」
「…突き動かしているもの…?」
「そう、それは、民選主義。自分を特別視してるんだ。自分でな」
「な……ッ」
サラリと言ってのけた師匠に、僕は固まる。

「当たらずとも遠からず、だろ?
お前は確かに被虐種だが、賢く、強い力も得れた。
そんな自分が中央に行けば、何か出来る筈。
そう、何かしなければならない、
何より母親の期待を、一身に背負っている僕だから。
だろ?坊や?」
相変わらず、この人は人の心の隙間に、剣を、楔を突き立てるのが上手い。

ともすれば、僕は冷静さを欠いて師匠に逆行していたかもしれない。

けれど、
そうだ。

そんな気持ちは無くも無かった。
……まだ大人でもない。
だからと言って子供とも言いきれない。
そんな、微妙に物分りの良い歳の自分は、
やはり、純粋な子供の考えよりも、そんな、
どこか自分を自分で認めている、嫌な部分があったんだろう。

僕は座りなおし、師匠に曖昧に笑う。
「師匠は、何でもお見通しですね」

でも、でも、それだけじゃない。
信じてもらえなくてもいい。
自分を正当化したい言葉かもしれない。

でも、
やっぱり僕の故郷はここで、
ここにいる、被虐者達が、笑顔で、ずっとずっと、幸せに、
幸ある日々を送れたら、と
そう、思っている。

「クロウ、」
「あ、はい?」
どこか、静かな師匠の声。

「嘘だ。悪かった」
「……え…?」
師匠が……
あの横柄で自分勝手な師匠が…
謝った!?

ゴチン

「そこに驚くな」
「…はい、」
痛む頭を抑え、しかし師匠を見れば、困った様な表情を浮かべる。



――― 6 ―――


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