終焉の日 9



思えば、余裕が無くて、あんな事をやってしまったんだ



いつもの冷静な私なら、あんな事をしなかったのに



何度も後悔して



何度も涙が出て





でも



それは確実に


私が、






静止の声も聞かず、私は走り出していた


夢中に、ただ、目的地へ、真っ直ぐと


そう、私が、こんな、不安定な気持ちになったあの日


あの時、彼につれて来られた、あの場所へ



そう、そうだった、彼に、声を掛けられさえしなければ……

「っ……ハァ……」
全力疾走だったせいか、僅かに息が荒い。
今まで薄暗い部屋の中で閉じこもっていたせいだ…

機械も、兵器も、動かされなければ、起動させなければ、
いずれ錆びて動かなくなる。

少し、錆付いた足を無理やり立たせ、私はまた走り出す。



息が、苦しい。
でも、胸はもっと苦しい。

怒りなのか、あるいは悲しみかもしれない。



……視線の先に、彼の勤め先の看板が見えた。






ギィ……

古めかしい音を立て、事務所のドアを押す

「あぁぁ、おかえり、ネウエル君。先方は何て言ってたかなぁ?」
ドアに背を向けたままの間延びした声が聞こえる。

「あ、あの……わた、」
「あぁぁぁ!君!ええと、ま…」
やたら嬉しそうに顔をこちらに向ける、…上司さん。

「真名、です。…お忙しい所申し訳ありません。
……あの、ネウエルさんは…?」
急く気持ちをなるべく前に出さないように、
勤めて、冷静に声を吐く。




「うん、彼はねぇ、少し仕事で出ていて
…もうすぐしたら帰ってくるよぉ」
「……そうですか…。
待たせて頂いても、宜しいでしょうか?」
「勿論だともぉお!
うん、君のようなキレイな子は大歓迎だよぉお」
「……有難うございます」
額に僅かに浮かぶ汗。

相手の言動をいちいち気に出来るほど、
余裕が無い自分に腹が立つ。
それとも、あるいは焦燥だろうか。
間延びした彼の声が、耳に、障った。

「そうそう、一つ聞きたかったんだけどねぇ」
「何でしょう?」
「彼は元気かなぁ?ほらぁ、君の家の」
「ジュラハンは……眠ったきり、起きてきません」
冷たく言ったつもりはないが、
何故か突き放したような声になる。
駄目だ…駄目だ…

「そうかぁ…残念だなぁぁ」
特に気にした風も無く、彼はそう答える。
……ジュラハンを、心配しているのだろうか?

「……あ」




「あー!!時間喰ったなぁ…まったく…」


ギィィ…ドアが声と共に開かれた。
ばっ、と後ろを振り返る。
「ネ…」

「真名さん、来てくれたんだ」
私が声をかけるよりも早く、
彼は少しはにかんだ様に笑った。
屈託のない、笑みで。


――― 9 ―――


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