終焉の日 10



そうして、終焉の序曲は始まった

いや、もうすでに始まっていたのだろう



兵器は使われなくなると、いずれ、錆びて、捨てられる

只、それだけの事に怯えて



そうして忍び寄る終焉の日に怯え身を潜め

しかしその日はやって来るのに




そう

分かっている

私は壊れていく

完膚無く

そうして

壊れて

壊れて


私の

終焉の日は

訪れるのだ






上司さんは、気遣ってか席を外してくれた。

「何だか随分疲れた顔してるね?……大丈夫?」
「平気…です」

どこから切り出そうか。
嗚呼
でも話し出したら止まらなさそうだ。
でも、

「おーい?…真名さん?」
「あ、は、はい!」
思わず頓狂は声を上げた私を、少し驚いた様に彼は見る。
「あ、いや、…えっと…ま、元気そうで何よりだよ。
あれから姿見せないしどうしてるのかと」
「……知ってたんですよね」
「何を?」
不思議そうに私の顔を覗く。

駄目だ。
聞かなきゃ。
分かってる。

「オリーブさんから、全部聞きました……。
私の事…私が…この数週間…どうしていたか
…やけに…詳しいんですね…ネウエルさん……」
「あ、何だそのこと?いやね、それはたまたま」
「何がたまたま…なんですか?
何でそんなに私の事を知ってるんですか?
……ずっと、気になってたんです…」
「え?…お、落ち着いて…」
そう諌める彼の顔もどこか青く見える。

「落ち着く?…えぇ、私は落ち着いています。
ずっと、考えていました。
あなたが、あの日私に声をかけたせいで
…私は、心に、
自分の心の暗い部分に直視しなくてはならなくなった。
…でも、それは偶然じゃなかった。それをきっかけに、
あの男は現れた。……そして、黒い化け物も現れた…。
ブァラーさんが怪我を負った。アデルさんが来なくなった。
急に、ドルヒさん達が…来て、そして、オリーブさんも……
…何が!何が目的です!?
…私が兵器だから?何のためにこんな
…あぁ…あなたさえ…あなたさえ…!
あの日…あなたさえ声を掛けなければっ!!」

息が、荒い。
思考は止まり、口が勝手に何かを紡いで言った。
苦しいものを吐き出す様に。
荒く、荒い呼吸を整え。


……そして、静寂が訪れる。

「……どうして、黙ったままなんで……」
追い討ちを掛ける様に、私は勢い良く顔を上げ
……そして固まる。


悲痛な、或いは憐憫、その交じり合ったような、
悲しそうな顔を、彼は浮かべていた。
何で…そんな顔を…

「そっか…お節介…だったみたいだね」
「……え?」
「本当に、そりゃ、勝手にそんな事して、
確かに怒るんじゃないか…って思ってたけどさ。
……勝手に、情報が入ってくるのは、職業柄だしね。
……そうか。…僕の、君への‘心配’は、
全て、悪意に取られちゃったみたいだ」
「………」
嘘を、ついていない瞳。

その言葉をゆっくり解して行く内に、
私の体温は下がっていく。

あ、違う。
違うんだ。
あれは、私を騙そうとしている言葉で。
違う。
勘違いじゃない。
私の勘違いじゃない。

だって、そうだ。
何で、そう思わなかったんだろう。
だって、心配って……

違う、違わない。

嫌だ、私は、彼に…なんて酷い……事を……

嫌…嫌だ……あ、あ、ああああああああああああ


「…お茶、入れてくるよ」
それでも彼は無理に笑みをともして立ち上がる。

ガタンッ!

私は、椅子を派手に倒し立ち上がり、そして立ちくらむ。
酷い、眩暈だ。
体の震えが、止まらない。
寒い、寒い、


「真名さん…?」
訝しげに彼は私に近づき

「……あ、……い、…あ…わ、」
声が出ない。    寒い
嫌だ。              怖い
こないで。     嫌だ
分からない。       嗚呼

壊れる。


壊れ…


バタン!!!


「真名さん!?どこに…今外に出たら…」

彼を跳ね除けるように、私は外に飛び出した。



嫌だ。        イヤダイヤダイヤダイヤ
もう、嫌だ。
何て、私は嫌な存在だろう。      


アアあぁああアアアアアぁあああああ



醜くて、愚かで、嫉妬の塊で。




嗚呼

壊れろ
いや、もう、とっくに壊れてる

分かってた。



嗚呼     アアあぁアあアあア

嗚呼



私なんか、
もう、



死んで

しまえ


――― 10 ―――


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