終焉の日 11



今

私は

何をすべきなのだろう?

逃げて

逃げて

逃げて、

その先には、

何もないのに。




ああ、

そう、

きっと、

そうなんだ。



傷だらけでも

惨めでも

這いつくばっても

救われなくても

私は

壊れたくない

死にたくない




生きたい


生きるんだ!!






「っ…ひゃー!すっげー雨!」
「バサラ!こっちだ」
「おう!悪ぃ!ナイツ」
見上げた空はどんよりと、
マドロミのそれよりタチが悪い。
オレは小さく身を縮こませ雨の行方を眺めた。
不安定な空。
誰かの心を移す様に。
まるで、

「……あ、あれ?」
「六たんどーしたの?」
「いえ…さっき真名さんが走って行くのが…見えたような…」
「真名が!?」
脱兎こ如くオレは駆け出し…
「待って!この霧の中じゃ危ないよ!
あの黒い化け物が出てきたら、バサラ君一たまりも無いでしょ?」
「…そ、そだけど…」
咄嗟に掴まれた腕とそのノイズの言葉にオレは躊躇する。
「大丈夫だって!真名はジュラの家から出てないんだろ?」
「そう…聞いていたけど」

確かに、そう聞いていたけど、
不安な気持ちが、どうしてか治まらなかった。
そしてオレは、濃い霧の向こうの、たった一人の、
妹の名を、呼んだ。



冷たい無慈悲な雨は、少し冷静を取り戻させた。

「………っ…?」

誰かに呼ばれた気がした。
振り向いたが、濃い霧の向こう側なんて見える筈も無い。
私は、再び屋敷に向けて駆け出す。
雨宿りをしている時間ももどかしかった。
一刻も早く、家に、自分の、閉じこもれる場所に、
帰りたかった。


よそう。
もう、いいんだ。
こんなに傷つけて。
酷い事ばかりやって。
もう。
むしが良すぎる。
どうにかなるなんて。
そんな、淡い事すら、
きっと、そう思うことすら、
今の私には、
あああ、そんな事すら

コツッ

「っ…キャ…ン」

余計な事を考えていたせいだ。
小石に躓き、私は無様に転倒する。

膝から滲み出る、僅かな血。
紅い、血。


大粒の雨は座り込む私に容赦なく降り注ぐ。
水を吸い上げ服は皮膚に張り付く。
そう。
雨さえも。
私の、この苦しい気持ちを流してくれる事さえしない。

それは次第に鬱積する。
じんわりと、ぐんにゃりと、


もう、このまま、雨が、もう、全部、
私を溶けるまで穿ってくれれば、






ゾワリ


背筋が、不意に小さく痺れる。
けして寒さのせいではなく。

微かな、地響き。
小さな、黒い影。

…まさか、
……まさか、



言いようの無い恐怖が体を支配する。
オカシイ。
私は、兵器だ。
何を、恐れているの?

…あれ
………カラダガ。



どうしてか、凍りついた様に、体は動かない。
変だ。


……変じゃ、ない。

………分かってる。

酷い事を言った罰だ。

きっと、私は、このまま、死ぬんだ。

きっと、壊れるんだ。


最早、まともな思考などもできず、
陰鬱な考えが後から後から飛び出る。


だから、私が、壊れるから、あの黒い、
化け物が必要なんだ。



ズン……

その小さな地響きは段々と迫ってくる。


私が、そうだ。
あの化け物に壊されて、代わりに、
あの化け物が、私に、真名になる。

そうなんだ。

だって、私は、
こんなに怯えている私は兵器じゃないから。
兵器じゃない、真名は、存在しちゃ、いけない、か ら


フラリ…と私は立ち上がる。
黒い影が、濃霧越しにも段々と濃くなっていく。


ごめんなさい。

……誰に、謝ったんだろう。


小さく、呻き私は歩む。


もう、少し。

そう、もう少し近づけば、あの化け物は、




私を、





「逃げてっ!!!」
不意に、耳障りな甲高い声。

ギギ…と機械の様に首を回し、
声のした方を向くと誰かが掛けて来る。

霧のせいで、見えない。

でも、黒い化け物と同じ様に、
私を目指して走ってくる。

何だろう。

今更。

今更。


「早く!!!何で逃げないの!!」
甲高い声が、耳元で聞こえ、
私は思考が間々ならなくなる。

あ。

ピンク色の、柔らかい綺麗な手が私を掴む。

グイっ!

そして唐突に引っ張られ、
私は僅かにバランスを崩す。

「早く!走って!!」

怒るような、声。

ぼんやり、と。

考える暇さえなく、

私は、言われるがまま、
その柔らかい手に引っ張られるまま、走り出した。



――― 11 ―――


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