終焉の日 18



死ぬ、


誰が、死ぬんだろう、

何が、死ぬんだろう

そう

でも

兵器には、

死

なんて、

訪れない


兵器は、

壊れるのが、

常。



私は、

私は、

そう、

決まっているんじゃなくて、

選ぶとしたなら、

私は

どっちなんだろう




兵器か


それとも、







腕が、左手が、やられた。
利き手じゃなかっただけ、まだマシだ。

足が、うずく。
一秒たりとも、立ってられない。

だが、それでも、ここで、倒れるわけには行かない。

私は、肩から伸びる、腕から生える、
その銃機器に弾丸を詰める。

もう一度、後、一撃………



「いけっ……!!」

何十、何百の薬莢が地面に叩きつけられる。

まだ、…まだ足りないのか……まだ……くっ……


ブゥン…

緩やかな、緩慢ささえ見せる化物の攻撃を、
私は思い切り喰らい、壁に叩きつけられた。



「………っ…」
ガレキを払い、立ち上がる。

形勢は、完全に逆転された。

奴は、ことごとく、私の攻撃を凌ぎ、
そして、圧倒する力で、返してくる。


そう。
分かった。
あの化物は、そう、受け付けない、
無敵、なのだ…既に、私が知っている
…攻撃に対して

自分で考えておいて、
その語尾の拙さに笑いそうになる。

でも、本当に、明らかに、奴は、
私の攻撃を受け付けなくなっていった。
まるで、学習していくように、あるいは、
復習していくように。



……大丈夫…でも、まだ勝ち目はある
…もう一度…チャンスは来る
…いや…チャンスを…起こす…

無防備に、私は走り出す。
馬鹿にしたような、肩を震わせた、
化物の、攻撃。

雨のように降り注ぐ、弾丸。

ダンッダダダダダダダッ

肩から血飛沫が上がる。
腿が抉られる。

だけど、止まらない…
あと、あと一撃の……


「いけぇえええ!」


高く、飛び上がる。
そして、真っ直ぐ、眼前に、刀を突く。
薬莢の煙が邪魔をして、互いが見えない。
だが、兵器の私には分かる。
そう、もう一撃、あと……

も、う、

い……


ズズズズズッ……


肉の裂ける、柔らかい、音。



「っぁあああああああ!!!」
叫び声が、響き渡る。


ズルルルッルル


引き裂かれ、傷口が広がり、激痛が、走る。



四肢は、動かない。
鋭利な触手は、私の、腕と、足を、貫いていた。


「ッ…あ…」

分かって、いた。

相手は、2手も、3手も、先回りして、いたって……。

気持ちが、早った……


馬鹿だ…分かって、たのに…


激しい、後悔が押し寄せる。
そんな事、考えているときじゃないのに、
酷く、冷静に、その時は、なっていた。

痛みが、ジンジンと、痺れ、麻痺して来る。

四肢を押さえ蹲る、私を、馬鹿にするかの様に、
或いは、どこか憐憫に満ちた、目を一瞬垣間見た。
その、化物、に。
どこかで、見た、瞳。

あぁ…その目は、私の、目だ。



そうだ、
最初から、分かっていたじゃない、か。
この化物は、“私”だ。
嫉妬や、怒りや、憎悪や、
そんな、人らしい、感情が入り交ざった、
醜い、私だ。


だから、
私が、死ねば、きっと、この、化物、も、


そう、
きっと、今日が、私にとっての、終焉の、















…………

……………風が、不意に、吹いたような気がした。

私は、僅かに、首を、起こす。


誰かが、真っ直ぐ、こちらを目指し、走ってくる。
真っ直ぐに。





そう、こちらに、走ってくる、
黒い、軍の帽子と、ミルク色の、髪の、








「ニヒ…ト……さ…」

来て、くれた。
来て、

つぅ、と、自然に涙が伝う。

ああ、




ニヒトさんが、ニヒト…さんが。






胸が、熱い。

痛みが、次第に甦る。

意識が、覚醒、していく。



そう。
そうじゃない。
私は、死にたくなんか、ない。
まだ、生きていたい。
生きたい、生きたい…。
醜くたって、嫌な事だらけだって、ボロボロだって、
生きていたい。
だって、
だって、
私は、兵器じゃない。
あんな、化物と一緒じゃない…。
私は、
そう、





人間、だ。






カッと目を見開き、私は化物を見据える。




不意に、力が沸く様な、感触を覚えた。

貫かれたままの、腕が、酷く、熱く、感じる。

そう、そうだ…この、一撃…で…


ググ…ッ

痛む腕を、捻り、眼前の化物を、見据える。
この、一撃…で…
私は、…


「うわぁあああああああ!!!」

真っ直ぐに、私は、化物の正面を走る。
腕が、熱い。
生きている、からだ。

私はそして、化物に、腕を、突き立てる。
堅い装甲は、紙の様に真っ直ぐ、真っ直ぐ、


化物を、貫いた。






瞬間、意識が、一瞬途切れ、

誰かの、怒号が響き、




次の瞬間、私の身体は、宙を、舞う様に、飛んだ。




そして、緩やかな落下は、
誰かの腕に、受け止められ、

ぼんやりと、綺麗な、金の目と、
鮮やかな空の青が、合い混じって、






そうして、静かに、ゆっくりと、
意識が、途切れた。


――― 18 ―――


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