終焉の日



ジュラハンは、一命を取り留めた。
何があったかは知らない。
けど、首だけになって戻って来た時は、
絶句するより他はなかった。

それでも、意識を未だ失っているジュラハンの傍には、
常に誰かがいた。
アーデルハイド、メルヴィナ、そして、



「……マダ、ジュラハンノヨウスカワラナイノカシラ?」
「……えぇ」

勤めて冷静に、私は平然と返事する。
兵器には容易い事だ。

「ソウ……」

しょんぼりと、触覚を垂らし、
ジュラハンの部屋に入っていく。



怒り、と呼べばいいのか、憤怒、あるいは、
そんな感情が全身を駆け巡る。

今更、今更、見舞っても……なんで今更、
ジュラハンは、ずっと貴方を待っていたのに、
貴方の為に、血を流したのに、
何で、貴方なの、
今更…今更……!!
何で、私じゃ……


どす黒い感情は留まる事を知らない。
だが、理性はソレに僅かに勝っていたようだ。
私は、静かに、屋敷を後にした。




町並みは、未だ酷い。
壊れた市外の復興作業は世話しなく進んでいる。

……と、風に揺られたのか、木材が不意に傾く。

小さな、悲鳴。

その下には、一匹の被虐AA

咄嗟に、体が動いた。


ズン………

重々しい木材の倒れる音……否。
私の、片腕に倒れ掛かった木材の、断末魔。

目を、しっかと閉じていた被虐AAは、
いつまでも己が身に降りかからない死に、
そぅ、と目を見開く。

「……ッ…あ、あなた…」
「いいから、早く木材から離れなさい。
私も重くない訳じゃないんだから」
「ひ……す、すみません!!」
安堵と恐怖が入り混じった表情で、
そのAAはそろそろとはいでる。

ズォン……

AAが離れたのを確認してから、
私は右腕で支えていた木材を軽く脇に置いた。


見れば、唖然とその一部始終を見守っていたAA達。
最初は戸惑っていた彼等だったが、疎らに口笛がなり、
拍手が沸く。
虐殺者が、被虐者を助けたという、
異様な光景にも関わらず。

こういう空気は、嫌いだ。

私はくるりと背を向ける。


「あ…あの……」
「何?」
振り向けば先ほどのAA
「助けて頂き…その…ありがとうございました……」
オドオドと、それでも懸命に笑みを浮かべようとする。

馴れ合いや、容易い感情は嫌いだ。

「……町を復興させたい気持ちは、
誰でも今は一緒よ……勘違いしないで」
「でも……」

フ…と口元が意地悪く開く。

「勘違い、と言っているでしょう?」
そう言って、そっと耳元に口を近づける。
「こんな時に被虐AA一匹にでも死なれたら、
周囲の士気が落ちるでしょ?
私はソレが嫌だっただけ……だから」
にぃ、と笑む。
「町が、復興したら、貴方を一番に虐殺してあげるから」
「……ヒッ…」
青ざめた顔。

「……冗談よ」
そう笑い、私は背を向ける。

そして、僅かに後悔する。
何で、こんな酷い事を平気で言えたんだろう。
彼女の傍らに、彼氏らしきAAがいたから?
……いや、きっと、そんなの気のせいだ。

………いや……

そうだ、きっと、あの女と、重ねていたんだ。

守られる事に慣れきった顔。
自然と、誰にでも好かれる、優しさ。
……私には、決して持てないもの。

……私に残されたのは、ツギハギの力と、
兵器の力だけ。

平和な世界には、必要のない力。
……でも、あぁ……そうか。
私は、虐殺者なんだ……

この力があれば、きっと、あの女だって

……違う
…病んでいない
……必要と、されなくてもいい……
…愛されなくても、いい……


……傍に、いたい、だけなのに……

…だから、それだけだから……


…だから、そう、彼女を、殺----



ぱしゃんッ!

「え?」
不意に、思い切り降って来た水に、私は呆然となる。
服が濡れ、雫が僅かに髪を伝う。


「ごめん!大丈夫?」
少し、慌てた様な声が上から掛かり、
私はキッと見上げる。

糸目と、アヒャ目の、それが凄く印象的だった。

そして、彼との出会いが、私の運命を
大きく…変えていく事になるとは
まだ、予想すらしていなかった。


――― 1 ―――


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