終焉の日 23



憧れと、大好きと、愛してる、

その違いって何だろう

良く分らない。


きっと今の私には、

そういう言葉は必要ないから、

分らなくてもいい。




このドキドキの本当の意味が、

分るその日まで、


……このドキドキを、

大事にしておこう。






そう言えば、結局バサラが何であそこにいたのだろう。

別れてから聞きそびれたことを思い出す。



また、後で聞けば…いいか。

思い直し私は走り出す。





走っているうちに、色々なことが、
不意に走馬灯の様に流れる。
ほんの数日の間に、私は…随分と、
色々な体験をし、思いをした。

虐殺し、
虐待するのが当たり前で何とも思っていなかった頃の
自分が懐かしい。

そして、再びあの日常に戻るのを少し恐れた。

あの日みたいに、少し腹が立ったからと言って
何の疑問も無く殺そうとする。
その人が、もしかしたら自分の将来を救ってくれるとも知らずに。

そう考えていたらキリがなく、
虐殺なんかできなくなってしまう。
虐殺ができなくなったら、
それでこそ、私の存在する意義はなくなってしまうのではないか。
それとも、ジュラハンの様に、………





「……真名さん?」
驚いたような声が、前方から聞こえた。

「………今日は本当、
…色々な人と会う日ですね……ニヒトさん」
私は小さく笑う。


「怪我の方はもう良いんですか?」
「…お陰さまで。殆ど癒えました
……あの時ニヒトさん達が助けに入ってくれたお陰ですね。
…有難うございました」
「あ、…いえ。
…あの時は、運が良かったのもありますし…。
それにしても、」
「え?」

ニヒトは夜風に髪をなびかせる。
「本当に、無事でよかったです。
…もし真名さんに何かあったらどうしようかと思いましたよ」
「あ、い、いえ!そんな!」

顔が、上げられない。

鼓動が、早くなる。
耳に、痛いほど響く。

「真名さん?」
「あ、え、ええと、そんなの、無事に決まってますよ!!
私は兵器ですし!多少のことでは壊れませんし!
そ、それに、こんな事で欠陥してしまったら
折角私に軍備を回してくれた政府にも申し訳ないし…」
早口に、言葉が止め処も無く零れる。

「真名さん……」
「それにしても、今日は変ですよね!
皆が皆こんな夜中に出歩くなんて、
何だかお祭りみたいで…」

「…………」
「あ、…え、ええと、あの……」

不意に黙ってしまった彼に、私は僅かに顔を上げる。

月明かりが、彼の白髪を白銀に染め上げていた。


「…やっと、こちらを見てくれましたね」
「あ、…ええと……」
「軍でずっと言われてきたことじゃないですか?
話すときは相手の顔を見て話す」
「……すみません」
「………いえ…それは、冗談ですが」
「…あ、……冗談でしたか
……ええと、すみません……」


居心地の悪い沈黙。

……なんでいつもこうなんだろう。
話そう、話そうと思っているのにうまく話せれない。
変に力が入ってるのか。
話すのにいちいち緊張してドキドキしてしまう。


「……真名さん、変わりましたね」
小さく、ニヒトは笑う。

「え…?」
「黙っている貴方を観察していたら、
困った表情を浮かべたりため息を付いたり、
思案顔になったり
……昔の貴方でしたら常に無表情でしたのに」
「そう…でしたか…?」
「えぇ、…口調にも恐ろしい程棘がないですしね」
「………すみません……」

そうだ。
兵器がこんなにころころ表情が変わったり
冷静さをなくしたり
…本当、欠陥が出たのかもしれない…。

「ですが、…そんなに気に病むことは無いのではないでは?」
「でも、全然兵器らしくなくて……」
「それでもいいんじゃないですか?人間らしくて」
「…人間らしくて……」
「えぇ、人間らしくて、貴方らしくて、
…とても良い傾向だと思いますよ?」
「でも、私は兵器で……」
「あぁ、そこは訂正しないといけないですね」
「そ、そうですよね……」

彼は、ニヒトさんはそんな私を見て小さく笑う。

「そうじゃありませんよ。…貴方は、
…兵器の前に、自分が人間だと思わなくては」
「…兵器の前に…人間だと?…でも私は……」
「全く、頑固な所は全く変わっていませんね…」
やれやれ、と小さくニヒトさんは笑う。

「あ、す、すみませ……」
「謝ることはありません。
それがまた真名さんらしい、人間らしい所です」
「…………」

言葉が、上手く紡げなかった。
まだ、頭が混乱している。


「それよりも真名さん。
こんな時間まで出歩いていたら…ジーベ……いえ、
…オリーブさん達が心配するのでは?」
「あ、…えぇ…そうですね…」
どうしてか言葉を選んで、ヒニトさんはこちらを見やる。

「女性が一人歩きも危険です。送りましょう」
スゥ、と彼の手が私に伸びた。

「………あ、…私……」

今、この手を、……掴みたい。………

でも、



「すみません。…私、どうしても会いたい、
会わなければいけない人がいるので」
「途中まで送りましょうか?」
「いえ……大丈夫です。…私、一人で行けます」
「………そうですか。では、お気をつけて」

それ以上彼は何も言わず、
私が見えなくなるまで、見送ってくれた。


……ニヒトさん…嬉しかったです。
でも、きっと、
今の私には…ニヒトさんの手を取る事は…できません…

彼が視界の片隅に消え、次第に私は駆け足になる。


……そう、きっとあの場所に、あの人はいる……!


――― 23 ―――


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