終焉の日 25



それは、

いつか終わりを告げる物語



それは、

いつか記憶の中にだけ残る物語





そして

あるいは、


終焉の物語







いつまでも終わらない世界が好きだった


いつまでもこの時間の中に生きたいと思った



だってそれが、凄く楽だから。




でも、変わっていく。




人は、変わっていく。




そう…人だから、変わっていく。






楽しかった、苦しかった、辛かった、色々な、
感情を後ろに、前へと、進める。










そして、これは私の終焉の物語。








そして、






「ネウエルさん!
そ、その…あ、あの……わ、…わた…しと…ッ…!」

一気に吐き出そうとするが、
心臓の激しい鼓動がそれを遮る。

その一言が言えない。


断られたらどうしようとか、
そんな、前なら思わなかった筈の感情が、
私の舌をもつれさせる。


「………わたし…と」
それでも、私は言わなきゃ。
心臓が、止まらない。


ネウエルさんは、ただじっと、私の次の言葉を待つ。
真摯な瞳で。

あぁ。
この瞳は。
初めて、私と彼が出会ったときの、あの瞳によく似ている。

でも、
そこに宿るのは以前の様な、悲しみは灯っていない。
どこか、暖かく、そして少しだけ、不安の色を湛えて。




私は、そして小さく息を吐き、
そして、

「ネウエルさん……わ、私と……
と、と、友達になって下さい!!」

叫び、
ぎゅう、と目を閉じる。

だって、いきなりこんな事を言われて、何て思うだろうか。
だって、彼と私には、そんな繋がりなんかないし、
だって、だって、


ネウエルさんは、いつまでも黙ったままだった。

……怖い、怖いけど、
私はゆっくりと、目を開ける。
そこには、

「ネウエル…さん?」


キョトン、と、どこか拍子抜けしたかのような、彼の表情。

「あ、…あの…」
遠慮がちな声に、彼はハッとこちらを見て、
そして、暫し考え込むように沈黙し……

ややあって、
どこか困った様に笑って、
「俺で良ければ」

そう、やさしく答えてくれた。


















今から思うと、本当、私は世間知らずで、何も知らなくて、…
ああ、本当恥ずかしかった。

“友達になってくれ”
その一言を言うのに、
何であんなこの世の終わりの様な気持ちで言ってしまったんだろう。
ネウエルさんが呆れるのも仕方がない。
でも……だってあの私は、



「真名?出かけるのか?」
不意に背後から掛かった声に、
私は少し表情を険しくさせる。

「ジュラハン…何フラフラ歩いてるのよ…。
怪我、完治してないんでしょ?」
「いやまぁそうだけど家の中歩く位は……
って、あ、もしかして俺の心配してくれて…」
「誰が!」
振り向きざま、キッと彼を睨む。

う…、と二の句の告げない表情で固まるジュラハン。
後ろにそっと控えているメルヴィナ。

どういう仕組みか知らないが、
彼は胴体に首がややひっついた形で、
一先ず完治していた。
それでもまだ本調子ではない。
すぐ調子にのる彼の事だ。
メルヴィナがいなければ、
もう外に飛び出していたかもしれない。

「いや…でも、な。それを言ったら真名。
お前の怪我の方は大丈夫なのか?」
「…あれからもう一週間が立つし
……それに私は、兵器の体だから、貴方よりはずっと調子がいいわよ」
言葉を選び、私はジュラハンを正面に見る。




そう、あの日の夜から一週間が過ぎようとしていた。
細かい事はあの後色々とあったのだが、
とりあえずこの一週間のうちに、
再びシティは元に戻りつつあった。

無論、元通りにならないものも…あるのだろうが。



「で、今日はどこ行くんだ?」
「……デート」
「…は?」

「嘘よ」
悪戯な瞳を湛え、私は小さく笑む。

「……って、おい!その顔は明らかに嘘ついてるだろ!!
って…と…ええと、そっちの嘘じゃなくて、嘘の嘘で…」
一人混乱し始めるジュラハンに私は小さく笑い、
階段を駆け下りる。
どうも、最近はジュラハンを見ると
からかい半分苛めてみたくなる衝動に駆られる。
…誰かの影響のような気がしないでもないが…
これはきっと良い傾向なんだろう。
一人私は納得する。



そう、人は、変わっていくのだ。
どんな方向にでも。


――― 25 ―――


Top 小説Top Next
inserted by FC2 system