終焉の日 4



何故、あの時、私はあの男を疑わなかったのか?
こんな結果を、予想もせずに。

こんなの、昔の私じゃない…。
気持ちに、行動が優先して、まるで、生きている者の様に、

出来損ないの、機械


嫌だ。
こんな、こんな事になるなんて。

私が、私が、……

いなければ







「サイキン、フンイキカワッタワヨネ?」
「…え?」
「マナサン」
花に活ける水を取り替えながら、私はブァラーの方を見る。
「変わった、でしょうか?」
「エェ、ナンダカ、ムカシノヨウナカンジ…デモ、」
「でも?」
一瞬彼女は言い淀み、そして笑う。
「デモ、ワタシハ、--------」



バンッ!!!
荒々しくドアを、叩き付ける様に閉じ、
そして僅かに後悔する。
抜き取ってもらった筈の、負の感情は、
戻って来てしまったのだろうか?
それとも、あの男にからかわれただけ?
……それとも、……彼女に対する
……自分の、憎しみが…それだけが、
奥底に残ったのか…

何にせよ、落ち着こう。落ち着かねば。
ブァラーの言葉が頭を反芻する。

「ワルク、トラナイデネ。ワタシハ、イマヨリ、スコシマエノマナサンガスキダワ」
「イマノマナサン…」
「ナンダカムリヲシテイルミタイ」

無理?
無理ですって?
私が、こう望んだのに。
妬みや、嫉妬のない自分。
平穏な心の、機械の自分。

……なのに、何で、彼女の一言に、
私はこうも踊らされるの?
……あの子さえ、ブァラーさえ……いなければ……









「ねぇ、真名ちゃん!?」
少し乱暴に、勝手口が開き、彼女は開口一番叫ぶ。

「…どうしたんですか?」
「あのね、ブァラーちゃん、まだ来てない?」
「…えぇ…彼女が、何か?」
ん…、と一瞬顔を顰めるアーデルハイド。

「あのね、昨日の昼に別れてきり連絡取れなくてねー…
ほら、今日はあの子がおにーさんの看病の日でしょ?
…だから会えると思って」
「そういえば、」
私は時計をチラリと見やる。
「変ですね…いつもならもう来ても良い頃なのに……」


「アデルさん!真名さん!」
唐突に、男の人の声。
「あ、スコルおにーさん!どうしたのー?」
「お久しぶりです…」

以前より、少しやつれた表情の、彼の姿がそこにあった。
最後まで政府を守ろうとした彼が、
生きる道を選んだのは大変な決心だったんだろう。

そして、死に走ろうとした、父を彼はどう思っているのだろう?
弱い、と思うだろうか?
…きっと。

「……名ちゃん……真名ちゃん!!」
「え、…あ、はい…?」
「どうしたの?ぼーっとして!!今の聞いた?」
「え、ええと…」
「あのね、ブァラーちゃん、襲われたの」
「……え……」

瞳が、驚愕に見開かれる。






診療所のベットの上、ソコに、
血の気の引いた顔のブァラーが眠っている。

「幸い、命には別状はなかったのですが」
「全く…どうしたら女性にこんな酷い扱いが出来るんだ…」
「……少しでも、私の気を注ぎます…」
「姉さん…無理は駄目だ。……しかし…後一歩遅ければ…」

ハリス、ルスト、一華、伊呂波のそれぞれが、
ブァラーを前に沈痛な表情を浮かべる。

善意として町の人々に医療をして回っていた所、
偶然、一華が、路地裏に倒れておる彼女に気が付き、
ハリス等が、慌てて駆けつけ、そして……今に至る。

「しかし…この傷は一体何なのでしょう?」
「これは…ふむ…」
「政府の」
「え?」
スコルの声に、一同が振り向く。

「……確証は持てないが、
かつて政府の使っていた弾奏に
似た形のものがあった気がする。
 …真名さんなら判るのでは?」
「えぇ…そうね」
私もコクリ、と頷く。
「確かに、この型の武器を、政府は扱っていたわ」
「……でも、政府の武器は破棄されたか、
破壊されたか…厳重に保管されている筈だ」
「…えぇ…確かに」


「ッ……ン……」
「ブァラーさん!?」
一華がいち早く彼女の目覚めに気が付く。
「……ココハ…」
「貴方は裏路地に倒れていたのですよ?覚えていますか?」
「……エェ…」
「一体どうしたのかね?……全く、
…うら若き女性があんな場所に赴くなんて」
「……テキガ…イタノ」
「敵?…一体どういう事だ?」
「……イキナリ、オソワレテ…トッサニ、オウセンシタノダケレド」
「…そいつが、政府の武器を盗んで暴れているという事か」
スコリが、怒りに満ちた目で窓の外を見やる。
「あのさ、何か…その敵の特徴ってなかったの?」
「……ソウ、デスネ…クロクテ…キョダイ…アァ…ソウ、ソレト」
思い出したように彼女は呟く
「ソノテキノ、シンゾウブブンニカワッタイシ…ノヨウナモノガ、ウメコマレテイマシタ」
「石?」
「エェ、クロイキュウデ、ナカニプラズマノヨウナヒカリノハシッタ…」

「っ………!?」
私は、思わず目を見開く。

黒い、球体、中に、走る、プラズマの光、
私は、ソレを、知って、いる……

「真名ちゃん?…どうしたの?」
「…なんでも、ないです。…大丈夫です」
勤めて冷静を保とうとする。


信じたくない
考えたくない

私の、負の心を一身に吸い取った黒い球体
光るプラズマ
政府の武器を使い、
ブァラーに怪我を負わせた、

……その、正体を…………


――― 4 ―――


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