終焉の日 8



少し思った

私が、

普通の家に生まれて、普通の、町に暮らして、

普通の、家族がいて、普通の、何の変哲もない、一日を過ごす。



私が、もし、普通に生まれていれば、

私は、幸せだったんだろうか?


優しいお母さん
素敵なお父さん
明るい兄ちゃん

それから、大好きな、



………


ちょっと、思ってみただけだから、


いいんだ。




……それでも、

ちょっと

憧れるなぁ







「ご馳走様でした…」

コトン、とココアの入ったコップを置く。

優しそうに、ニコニコと目の前に座っていたのはオリーブさん。

一人で食べるご飯って美味しくナイですよね。

そう言って、私の食事が終わるまで、そばにいてくれた。


…こんな、毎日も、いいかもしれない。
ふと、そう思った。
安穏で、周囲の事にも、目を向けず、
ただ、自分にとってのみ、幸せな、毎日。


「でも、元気になってくれて良かったです。
真名さんの事聞いた時、本当に驚きましたしね」
「…そんな、大げさなものじゃないんですが…」
私は思わず苦笑した。


……と、不意に、違和感を感じる。

……気持ち悪い、何かが、引っかかる。

………



「そうそう、そう言えばブァラーさん、
もうすぐ退院出来るそうデスよ?
…真名さん、責任感強いから逆に行きにくかったと思いますが、
折角ダカラ行ってみてはどうです?」

「彼女が…そうですか……」

確かに、自分が傷つけた様なものだ…行き難いのは当然であった。

……幸いなのは、この気持ちが周囲の人にバレなかった事だろう。
なにせあれ以来、私は殆ど外にも出ていなかったのだから。

そう、だから、私だけしか、知らない…

……え?

………わたしだけしか………


「……あ」

そうか。
オリーブさんが来た時から感じていた、
この矛盾は、コレだったのだ…

誰も、私の気持ちを知るはずがない。
あの化け物と、私の関連性を知るものはいない。
私が、一人、落ち込んでいた事なんて、誰も、知る由もない。


……そう、彼女は言った、
……“真名さんが心配だったから”
普段の私を知っているなら、
それだけの理由で、家に戻ってくる由もない。
…そして、私の気が動転していたせいで気が付かなかったのだが、
彼女は私の今の気持ちを汲んだ上での発言をしている。

……つまり、そういう事だ。

…ソレが、彼女じゃないとしたら……

……私の事を、調べている奴がいる。


ザワリ……

昔の感覚が少し元に戻る。
目的は知らない。
だが、…恐らく、
あの黒い化け物に…関連しているのではないだろうか…?


「…真名さん?どうしたんです?難しい顔で」
「あ、いえ……ええと、オリーブさん
…私の事…その、誰に聞いたんですか?」
「え?あ、あぁ、ほら、彼ですよ。
…エエト、
同じボランティア活動に顔合わせした時に彼に言われたんです。
真名さんの事を色々」
「……その、彼って…」

「ええと、…そうそう、ネウエルさんですよ。
サテュルメさんの事務所の職員さん」


「ネウエル…さん…」

“(本人は主にボランティアを行っていると言ったが)”


あぁ…なるほど、……そういう、事か……


ピースが一つ、ぴたりと、はまった


――― 8 ―――


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