「ご馳走様でした…」
コトン、とココアの入ったコップを置く。
優しそうに、ニコニコと目の前に座っていたのはオリーブさん。
一人で食べるご飯って美味しくナイですよね。
そう言って、私の食事が終わるまで、そばにいてくれた。
…こんな、毎日も、いいかもしれない。
ふと、そう思った。
安穏で、周囲の事にも、目を向けず、
ただ、自分にとってのみ、幸せな、毎日。
「でも、元気になってくれて良かったです。
真名さんの事聞いた時、本当に驚きましたしね」
「…そんな、大げさなものじゃないんですが…」
私は思わず苦笑した。
……と、不意に、違和感を感じる。
……気持ち悪い、何かが、引っかかる。
………
「そうそう、そう言えばブァラーさん、
もうすぐ退院出来るそうデスよ?
…真名さん、責任感強いから逆に行きにくかったと思いますが、
折角ダカラ行ってみてはどうです?」
「彼女が…そうですか……」
確かに、自分が傷つけた様なものだ…行き難いのは当然であった。
……幸いなのは、この気持ちが周囲の人にバレなかった事だろう。
なにせあれ以来、私は殆ど外にも出ていなかったのだから。
そう、だから、私だけしか、知らない…
……え?
………わたしだけしか………
「……あ」
そうか。
オリーブさんが来た時から感じていた、
この矛盾は、コレだったのだ…
誰も、私の気持ちを知るはずがない。
あの化け物と、私の関連性を知るものはいない。
私が、一人、落ち込んでいた事なんて、誰も、知る由もない。
……そう、彼女は言った、
……“真名さんが心配だったから”
普段の私を知っているなら、
それだけの理由で、家に戻ってくる由もない。
…そして、私の気が動転していたせいで気が付かなかったのだが、
彼女は私の今の気持ちを汲んだ上での発言をしている。
……つまり、そういう事だ。
…ソレが、彼女じゃないとしたら……
……私の事を、調べている奴がいる。
ザワリ……
昔の感覚が少し元に戻る。
目的は知らない。
だが、…恐らく、
あの黒い化け物に…関連しているのではないだろうか…?
「…真名さん?どうしたんです?難しい顔で」
「あ、いえ……ええと、オリーブさん
…私の事…その、誰に聞いたんですか?」
「え?あ、あぁ、ほら、彼ですよ。
…エエト、
同じボランティア活動に顔合わせした時に彼に言われたんです。
真名さんの事を色々」
「……その、彼って…」
「ええと、…そうそう、ネウエルさんですよ。
サテュルメさんの事務所の職員さん」
「ネウエル…さん…」
“(本人は主にボランティアを行っていると言ったが)”
あぁ…なるほど、……そういう、事か……
ピースが一つ、ぴたりと、はまった
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