「コリャ、タシカニカベッテヒョウゲンガタダシイナ」
「んー先の戦争でもこういう結界が流行ってたねぇ?」
「えぇ、これは軍が開発した結界に酷似していますね」
「…………だが、これもあの化物の仕業に相違ない」
「アンタガシャベルノ、オレハジメテキイタゼ?」
「…………」
「ま、ここでしのごの言い合っていても意味はねぇぜ?
さっさとこの結界とやらと解いちまわないと」
「……そう、簡単に言ってくれますがね…」
ニヒトはやや困った顔つきで
ドブロク、ジャック、スラウターの順に面々を見る。
「これは特殊な結界でして……内側と外側、
その両方から解除を行わないといけないモノですよ。
…つまり、中であの化物と闘っている誰かさんが
この結界に気が付いてくれない限り、
こちらとしては打つ手がありませんね」
「オレアゲジャネェカ!ソレジャ、
セッカクコウロトウヲクンデモカイブツノヤリタイホウダイダローガ」
「……………そうとも…限らない」
スラウターは目を細め、
遠くを鋭く射るような目付きになる。
「…だな。お前さんの言うとおりだ」
スラウターの意を汲んでドブロクは歩き始める。
「結界の中に閉じ込められてる
…他の奴さんもいる可能性が無きにしも非ず…だな
…そいつらがこっちに気が付けば、」
「ナルホド」
納得した様にジャックは頷き、
そして4人は結界伝いに他の生存者を探し始めた。
醜い悲鳴が怒号する。
目を、とっさに覆う化物。
チャンスだ……!
ズルルルルルルッ!
勢い良く刀を奴の目から引き抜く。そして…
「はぁああああ!」
ドン……ッ!!
重たい、鉛に何かを突き刺すような音を立て、
私の刀は…黒い、プラズマの塊の中に沈んでいく。
「……-------------……」
化物は…音も無く、
叫び声も上げず…ズルズル…と体を崩していった……。
………勝……った…
私は、静かに倒れ付す化物を一瞥し、刀を引き抜く。
刃は、僅かに刃こぼれしていた。
「………修理、頼まなくちゃ…」
遣る瀬無い表情で、しかしどこか、
スッキリとした表情で、私は化物に背を向ける。
空を、見上げた。
空は、青く、どこまでも澄み渡っている。
先ほどの雨が、嘘の様に。
雨……
雨………
あ……
「っ……!」
私は慌てて瓦礫の方に駆け出す。
彼女が、彼女は…まだ、まだ生きて……
そして駆け出そうと、
2,3、歩進み……私は不意に違和感を覚える。
遠めに、何か、薄い膜のような、光の壁が見える。
……そうだ。
これは政府が作り出した、特殊結界。
…解除方法は…こちら側と、あちら側から同時に結界を割り、
そして、もう一つは、当たり前のことだが………
「…………え………」
私は、その事実に、やや困惑する。
そう、この結界は、張った張本人が倒れれば自然と解ける。
当たり前のことだが。
だが、目の前の結界は、未だ、光の壁を、湛えている。
湛えて、
………まさか、
…まさか、まさか…まだ…まさか……
首筋が、チリチリ痛い。
「ッ………!!」
咄嗟に、私の機械の部分が、防壁を張ったのと、
あの、黒い化物が私に攻撃を繰り出したのは、
ほぼ同時だった。
ズオン……!!
「キャッ………!」
その一撃は何とか防いだものの、
衝撃と重みに耐え切れず私は吹き飛ばされる。
「っ…何でよ……」
呆然と、たが体は戦闘態勢に入りながら私は呟く。
化物は、先程のダメージを苦とも思わないのか、
以前と同じ力、スピード……
いや、それ以上の攻撃を繰り出す。
それどころか、傷ついた部分は再生し、
そして更に鎧の様なものが強固にまとわれ巨大になっていく。
「まさか…………あの…黒いのが弱点じゃないの…?」
まだ、戦いは、終わっては、いなかった。
ギリ…
少し、強く奥歯を噛む。
勝利の高揚感は一気に消え、身体はスゥ、
と冷たくなっていく。
だが、チャンスがなくなった訳じゃない…!
私は正面から化物に向かっていく。
もう一度……目を潰す!
逆手に刀を持ち、翼で一気に真上に上昇し
…そしてそのまま勢いに任せ……
瞬間、ビュウ……、そう、耳元で風を凪ぐ、
何かの音が聞こえ……
「ぐっ…あぁ!!」
私は何かに思い切り横殴りにされた。
翼をはためかせ何とか激突する前に持ちこたえる。
「……やる…じゃない…」
口元から滲み出た血を拭い私は強気に笑う。
誰かの様に。
でも…次はない……。
再び私は体制を整え……
ビョウ……!!
「っ痛……っあ…」
不意に、背後から何かが肩を刺し貫く。
何とか首を向ければ、
地面から黒い触手の様な何かが突き出ていた。
その先を辿れば、どこか、
嘲る様に身体を小さく震わせる、黒い化物。
「…っ…こんなの…!」
無理やり私は銃口を肩から突き出る触手に撃ちつける。
「………ッ…」
僅かな衝撃と共に激痛が走る。
だが、そんな時間さえ惜しい…。
私は前方に、佇む、巨大な影を睨み付けた。
――― 17 ―――