終焉の日 17



そして、

私は、




朦朧と、

空を見上げる




昔から、

本当に、

その一言が言えなくて、


“助けて”……って






「コリャ、タシカニカベッテヒョウゲンガタダシイナ」
「んー先の戦争でもこういう結界が流行ってたねぇ?」
「えぇ、これは軍が開発した結界に酷似していますね」
「…………だが、これもあの化物の仕業に相違ない」
「アンタガシャベルノ、オレハジメテキイタゼ?」
「…………」

「ま、ここでしのごの言い合っていても意味はねぇぜ?
さっさとこの結界とやらと解いちまわないと」
「……そう、簡単に言ってくれますがね…」
ニヒトはやや困った顔つきで
ドブロク、ジャック、スラウターの順に面々を見る。

「これは特殊な結界でして……内側と外側、
その両方から解除を行わないといけないモノですよ。
…つまり、中であの化物と闘っている誰かさんが
この結界に気が付いてくれない限り、
こちらとしては打つ手がありませんね」
「オレアゲジャネェカ!ソレジャ、
セッカクコウロトウヲクンデモカイブツノヤリタイホウダイダローガ」

「……………そうとも…限らない」
スラウターは目を細め、
遠くを鋭く射るような目付きになる。
「…だな。お前さんの言うとおりだ」
スラウターの意を汲んでドブロクは歩き始める。
「結界の中に閉じ込められてる
…他の奴さんもいる可能性が無きにしも非ず…だな
…そいつらがこっちに気が付けば、」
「ナルホド」
納得した様にジャックは頷き、
そして4人は結界伝いに他の生存者を探し始めた。









醜い悲鳴が怒号する。

目を、とっさに覆う化物。

チャンスだ……!


ズルルルルルルッ!
勢い良く刀を奴の目から引き抜く。そして…

「はぁああああ!」

ドン……ッ!!

重たい、鉛に何かを突き刺すような音を立て、
私の刀は…黒い、プラズマの塊の中に沈んでいく。

「……-------------……」
化物は…音も無く、
叫び声も上げず…ズルズル…と体を崩していった……。



………勝……った…

私は、静かに倒れ付す化物を一瞥し、刀を引き抜く。
刃は、僅かに刃こぼれしていた。

「………修理、頼まなくちゃ…」
遣る瀬無い表情で、しかしどこか、
スッキリとした表情で、私は化物に背を向ける。

空を、見上げた。
空は、青く、どこまでも澄み渡っている。
先ほどの雨が、嘘の様に。
雨……
雨………

あ……

「っ……!」
私は慌てて瓦礫の方に駆け出す。
彼女が、彼女は…まだ、まだ生きて……

そして駆け出そうと、
2,3、歩進み……私は不意に違和感を覚える。

遠めに、何か、薄い膜のような、光の壁が見える。
……そうだ。
これは政府が作り出した、特殊結界。
…解除方法は…こちら側と、あちら側から同時に結界を割り、
そして、もう一つは、当たり前のことだが………

「…………え………」

私は、その事実に、やや困惑する。

そう、この結界は、張った張本人が倒れれば自然と解ける。
当たり前のことだが。

だが、目の前の結界は、未だ、光の壁を、湛えている。

湛えて、


………まさか、

…まさか、まさか…まだ…まさか……


首筋が、チリチリ痛い。

「ッ………!!」


咄嗟に、私の機械の部分が、防壁を張ったのと、
あの、黒い化物が私に攻撃を繰り出したのは、
ほぼ同時だった。

ズオン……!!

「キャッ………!」
その一撃は何とか防いだものの、
衝撃と重みに耐え切れず私は吹き飛ばされる。

「っ…何でよ……」
呆然と、たが体は戦闘態勢に入りながら私は呟く。

化物は、先程のダメージを苦とも思わないのか、
以前と同じ力、スピード……
いや、それ以上の攻撃を繰り出す。
それどころか、傷ついた部分は再生し、
そして更に鎧の様なものが強固にまとわれ巨大になっていく。

「まさか…………あの…黒いのが弱点じゃないの…?」


まだ、戦いは、終わっては、いなかった。

ギリ…
少し、強く奥歯を噛む。
勝利の高揚感は一気に消え、身体はスゥ、
と冷たくなっていく。

だが、チャンスがなくなった訳じゃない…!
私は正面から化物に向かっていく。
もう一度……目を潰す!
逆手に刀を持ち、翼で一気に真上に上昇し
…そしてそのまま勢いに任せ……

瞬間、ビュウ……、そう、耳元で風を凪ぐ、
何かの音が聞こえ……

「ぐっ…あぁ!!」
私は何かに思い切り横殴りにされた。
翼をはためかせ何とか激突する前に持ちこたえる。

「……やる…じゃない…」
口元から滲み出た血を拭い私は強気に笑う。
誰かの様に。

でも…次はない……。
再び私は体制を整え……

ビョウ……!!

「っ痛……っあ…」
不意に、背後から何かが肩を刺し貫く。

何とか首を向ければ、
地面から黒い触手の様な何かが突き出ていた。
その先を辿れば、どこか、
嘲る様に身体を小さく震わせる、黒い化物。

「…っ…こんなの…!」
無理やり私は銃口を肩から突き出る触手に撃ちつける。
「………ッ…」
僅かな衝撃と共に激痛が走る。
だが、そんな時間さえ惜しい…。


私は前方に、佇む、巨大な影を睨み付けた。


――― 17 ―――


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