終焉の日 14



痛む胸

乾かぬ涙

後悔の心


けど、


けれど、


いまは、


すべてを、




忘れよう





思い出せ
我が名を


そう

我は

兵器






うそ…だ…

呆然と、私は、ただ、全方の、
その、黒い化け物を見つめる。

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそだ、
うそだ…う……

真っ白に、そう、何も考えられない。


何で、何故、あの化け物が、
そう、雨がやんだ途端、急に、


雨が……
あ…

思い当たる節が一つ。
そう。
私と、同じだ。
雨の日だけ、一時的に、
能力が下がる、私の、小さな欠陥。

無論、探索用の装置も、一時的に下がる。
そう、そう、

あ、あぁ、

じゃあ、やっぱり…
あの、化け物は、
黒い、化け物は、

ギィ

静かな空気に、嫌な機械音。
奴が、振り返った。
胸には、巨大な、黒い、光のプラズマを湛えた球体。

口元には、僅かに赤い舌を覗かせ、

そう、…まるで、嗤うかのように…



「っ………!」
咄嗟に、私は身を引いた。

奴は、唸る様に、嘲る様に、
低い、不気味な音を喉から漏らす。
恐らく、笑い声を上げているのだろう。


ああ、
駄目だ…
あ、あ
恐怖が、全身を駆け巡る

怖い、怖い…



ガクガク、と全身が震える。
恐怖に、戦慄く。

怖い、怖い、こわ…

ブォオオン

「っ…いやぁあ!!!」
情けない声を上げ、
私は無様に転ぶ。
その化け物の一凪は、
先程雨を凌いでいたバリケードを完膚無く叩き潰す。

怖い、怖い、


涙で、目が霞む。
分からない。
違う。
こんなの、
いつもの私じゃない…。


ガタガタと、小刻みに震える体は止まらない。

もう、嫌だ。
何で、何で…


不意に、私は見る。
眼前に伸び上がる、影。
私のではなく、
そう、

それは、
歪な、
化け物の、
その腕を振り上げ、
そして、
私をめがけて、
振り………


嗚呼、
終、る……









ガキィィイイン!!!


そして、次の瞬間衝撃を受ける。

「っ……!?ま、さか……!?」
正に私の命を奪おうとしていたソレは…相対する、
機械の腕と交差し、均衡状態を保つ。

「私、の……」
それは、私の、私の役割…戦闘者としての私の、
無意識の行動。
その巨大な機械の腕の正体は、…私自身の腕。
戦いを宿命付けられたこの身体は、
自分の意識とは反対に、敵を判別し、
そして迎え撃とうとする。

「ったく…本当に…私は、私自身も、裏切ろうとして……」
不意に、笑みが零れる。
場違いなほど、自然で柔らかい、笑み。



……だから、どうした。
…彼女が、攻撃されたからって、
死んだとか、思い込んで。

…だから、どうした。
もしかしたら、いや、きっと、
生きている…そう。生きている、はずだから。

だから、どうした。
私は、また逃げようとして。怖くて。怯えて。泣きながら。

だから、

だから、


体制を立て直した化け物は、再び私にその刃をうねり、凪ぐ。


「っだから…どうした!!!」
叫び、そして私はその攻撃を機械化した腕で受け止める。

顔に、笑みが燈っていくのが分かる。
そう。
大切な事を、忘れていた。

このまま、弱い心のまま、
自分が誰なのかも分からず、
死んでしまうところだった。


そう、
思い出せ。

思い出せ。


私の名は、


兵器


――― 14 ―――


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