終焉の日 26



足りなかったのは言葉

欲しかったのは言葉





そして、

私はゆっくりと、いつか、それを手に入れていく。





そうした時、



私は、“私”に、なるのだ






「真名サン。もう出かけるんデスカ?」
階段を下りた私に、
オリーブさんが一番に気が付き笑顔を見せてくれる。
「えぇ…そろそろ時間だから」
横目で時計を見て、私は答える。

「じゃあ……、これを持って行って下サイ」
いつの間に用意してくれたんだろう。
小さなお弁当箱の入った袋を、私に差し出してくれた。
「今日はフルーツサンドですヨ!
真名さんの好きな苺が沢山入ってますカラ」
「わぁ…有難うございます」
わたしはニッコリと受け取る。



「えー…いいなぁ…おいしそー…」
テーブルの方を見れば、
自分もサンドイッチを頬張りながら、
羨ましそうにこちらを見るバサラ。
彼はあの日以来、度々家に寄るようになった。

「バサラ君にはデザートのプリンを夭死してますカラ!」
「わーい!!ぷりんー!!」
オリーブさんの言葉に飛び上がるバサラ。



「…あ、じゃ…私そろそろ行ってきますね」
「はい!いってらっしゃい!」
「またな!真名」
「楽しんできてね、真名さん」
「帰りは気をつけろよー?」
面々の言葉に軽く頷き、私は玄関の扉を開け、




「……あ」
小さく、身構えた。
扉の向こう側に立っていた相手も驚いたらしく、
一瞬固まる。

「キョウハジュラクン、イルカシラ?」
「あ、…ええと。います」
目が、合わせられない。
どこか罪悪のようなものを感じ、
私はブァラーさんのために扉を開く。

「…アリガトウ。…マナサン…ソノ、キョウノオヨウフク、トテモカワイイワ。ステキネ」
「ありがとう、ございます」

だめだ。
これじゃあ、前の私のまま。
こんなのは、嫌。

「ブァラーさん!
その、怪我、良くなって本当に良かったですね!」
家に入ろうとする彼女に、私は早口にまくし立てる。
キョトン、とした顔で彼女は振り向き、そして、
それは次第に優しい笑みに変わる。
「アリガトウ、マナサン」
「あ、いえ!…ええと、ではまた!!」
何となく気恥ずかしくなって、私は思わず駆け出す。
……でも、胸が、満たされた気持ちでいっぱいだった。
あの時言えなかった言葉たちが、今は、ちゃんと言える。



そう、今は、もう言えるんだ…




どこか前向きに、そして、私は力強く、駆け出した。












「あれ?真名ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
「え、ええと、何となく、走りたくて」
走らなくても時間にはまだ間に合う。
アデルさんの声に、私は立ち止まる。

「そんなに可愛い格好しちゃって…今日はデートか何か?」
「ち、違います…。その、友達と、少し、ショッピングしようって」
「えー…怪しいなぁ…」

「それより…アデルさんはどちらに?」
「あたし?うん、あたしはねー!
おにーさんのお見舞いに行こうと思って!」
片手に持ったケーキをドン、と突き出す。
「……あの、今は、やめておいた方がいいかもしれません」
「え?どうして?」
「あ、あの、ほら!スコルさん、
そこのケーキ屋さんのケーキ大好きなんですよ!」
「へぇ!そうだったんだ!
じゃ、スコルさんの勤務先にコレ持って行こうかなー」
「その方がいいですよ。きっと!」
何となく無責任な気がするが、
ジュラハンの家に行ったら行ったで、
何となく修羅場が予想されそうで怖い。

どうかスコルさんがあのケーキを好きです様に…
小さく、そう祈りながら、私はアデルさんに手を振った。


――― 26 ―――


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