「真名サン。もう出かけるんデスカ?」
階段を下りた私に、
オリーブさんが一番に気が付き笑顔を見せてくれる。
「えぇ…そろそろ時間だから」
横目で時計を見て、私は答える。
「じゃあ……、これを持って行って下サイ」
いつの間に用意してくれたんだろう。
小さなお弁当箱の入った袋を、私に差し出してくれた。
「今日はフルーツサンドですヨ!
真名さんの好きな苺が沢山入ってますカラ」
「わぁ…有難うございます」
わたしはニッコリと受け取る。
「えー…いいなぁ…おいしそー…」
テーブルの方を見れば、
自分もサンドイッチを頬張りながら、
羨ましそうにこちらを見るバサラ。
彼はあの日以来、度々家に寄るようになった。
「バサラ君にはデザートのプリンを夭死してますカラ!」
「わーい!!ぷりんー!!」
オリーブさんの言葉に飛び上がるバサラ。
「…あ、じゃ…私そろそろ行ってきますね」
「はい!いってらっしゃい!」
「またな!真名」
「楽しんできてね、真名さん」
「帰りは気をつけろよー?」
面々の言葉に軽く頷き、私は玄関の扉を開け、
「……あ」
小さく、身構えた。
扉の向こう側に立っていた相手も驚いたらしく、
一瞬固まる。
「キョウハジュラクン、イルカシラ?」
「あ、…ええと。います」
目が、合わせられない。
どこか罪悪のようなものを感じ、
私はブァラーさんのために扉を開く。
「…アリガトウ。…マナサン…ソノ、キョウノオヨウフク、トテモカワイイワ。ステキネ」
「ありがとう、ございます」
だめだ。
これじゃあ、前の私のまま。
こんなのは、嫌。
「ブァラーさん!
その、怪我、良くなって本当に良かったですね!」
家に入ろうとする彼女に、私は早口にまくし立てる。
キョトン、とした顔で彼女は振り向き、そして、
それは次第に優しい笑みに変わる。
「アリガトウ、マナサン」
「あ、いえ!…ええと、ではまた!!」
何となく気恥ずかしくなって、私は思わず駆け出す。
……でも、胸が、満たされた気持ちでいっぱいだった。
あの時言えなかった言葉たちが、今は、ちゃんと言える。
そう、今は、もう言えるんだ…
どこか前向きに、そして、私は力強く、駆け出した。
「あれ?真名ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
「え、ええと、何となく、走りたくて」
走らなくても時間にはまだ間に合う。
アデルさんの声に、私は立ち止まる。
「そんなに可愛い格好しちゃって…今日はデートか何か?」
「ち、違います…。その、友達と、少し、ショッピングしようって」
「えー…怪しいなぁ…」
「それより…アデルさんはどちらに?」
「あたし?うん、あたしはねー!
おにーさんのお見舞いに行こうと思って!」
片手に持ったケーキをドン、と突き出す。
「……あの、今は、やめておいた方がいいかもしれません」
「え?どうして?」
「あ、あの、ほら!スコルさん、
そこのケーキ屋さんのケーキ大好きなんですよ!」
「へぇ!そうだったんだ!
じゃ、スコルさんの勤務先にコレ持って行こうかなー」
「その方がいいですよ。きっと!」
何となく無責任な気がするが、
ジュラハンの家に行ったら行ったで、
何となく修羅場が予想されそうで怖い。
どうかスコルさんがあのケーキを好きです様に…
小さく、そう祈りながら、私はアデルさんに手を振った。
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