終焉の日 28



私を見ていてくれた人へ




私を応援してくれた人へ





私を叱ってくれた人へ






私を好きになってくれた人へ






さようなら、

そして、


ありがとう






心持穏やかに、ゆるり、と速度を落とし、
私はゆったり歩き始めた。
彼との約束の時間には、少し早めだが丁度いいくらいだ。

…後で、ちゃんとドルヒさんに謝らなくちゃ…
頭の隅でそんな事を考え、しかしそんな考えとは他所に、
鼓動が少し早くなっていった。






……まだ、彼と会うのは怖かった。
彼は優しいから、気にしないと言ってくれたけど、
けど、心の内は分からない。


前なら、兵器なら、こんな事、考えなくて済んだのに…
少しの間で、私はこんなに変わってしまった。


何故だろう。

…何故だろう。







不意に、温かい風が吹く。
初夏の、温かい風。
私は空を見上げる。
どこまでも、空は青く高く、晴れやかに広がっていた。







嗚呼


不意に私は気がつく。


これは、物語だったのだ。

ひとつの、物語だったのだ。




まだ、私にとって、判らないことだらけで

知らない事だらけで、



誰かから見たら、ひどく滑稽で、
誰かから見たら、ひどく陳腐で、



でも、これは紛れもない、私の物語



私だけの、物語






不意に湧き出たそんな考えに、私はクスリと笑む。
私は兵器で、そんな詩的な考えは必要ないけど、
でも、それは、これまでの話だ。






何故なら、この物語の最後には、一つの終焉が訪れるから。

そう、これは、


兵器としての私の、“終焉の日”なのだから。


彼に会った時に始まって、そして彼に会って、

この物語は、終焉を迎える。





幼い時、かすかな記憶の中、ある物語を読んだ記憶がある。
最後になるにつれ、読み終わるのが嫌になっていった。
いつまでも、楽しい物語の世界に住んでいたかった。

今の私も、同じ気持ちなのだろうか……。


違う。
そうじゃないんだ。
終焉があるから、誕生がある。
終わりがあるから、始まりがある。
そうしてそれを繰り返す度に、
新しい物語へと、出会えていくのだ。



だから、私は歩こう。
彼までの道のりを。
そうして、新しい自分の誕生に、
心から、喜ぼう。





顔を上げ、前を向けば、遠くに彼の後姿が映る。
私は、柔らかく微笑み、





そうして、私の道を歩き出した。












糸冬




――― 28 ―――


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