終焉の日 7



欲しかったのは、きっとキッカケ
少しでも、前に進むための

でも、それは望んだ形でないかもしれない
結局、私の望んでいる姿でないのかもしれない


それでも、私は歩く
泣きながら






ココアが、身にしみる。
暖かく心地よい、久しぶりの、生きている…という感触。

「うん、少しカオイロが良くなりましたね」

暖かさに、少し呆けた顔で私は彼女を見上げた。
少し安心したような、オリーブさんの顔がそこにある。

「……どうして…こんなに早く?」
「ワタシですか?」
テキパキと辺りを掃除したり料理の下味を付けたりしながら
オリーブさんは尋ね返す。



彼女は、
そのシティの中でも随一といっていいほどの優秀なコックだ。
そして料理の味が良いだけでなく、全てに置いて素早く仕事が速い。
そんな彼女がなぜ、
ジュラハンの専属コックとして一時身を置く事になったのか
…は、別の機会に話すとして…

兎角、壊れボロボロになったままの今のシティの状況に、
彼女はボランティア役を買ってでたのだ。
まだ復帰していないこの現状に、彼女の力は必要な筈……


「それは簡単ですよ。真名さんが心配だったからです。
…何も、私はゴシュジンサマに使えているだけじゃないですからね」
「そ、そうですか……す、みません」
思ってもみなかった答えに、私は微妙な表情を浮かべた。
どうも、自分は素直に笑顔を作ることが出来ないようだ。

「謝る事なんてないですよ!
…それに、誰か、ちゃんと家にルスバンできる人がいたほうが、
真名さんも安心できますものね」
「え?」
「真名さん……一人で、ずっと、ココにいたんですよね」
「…一人って…ジュラハンや…それにメルさんも…」
「でも、あの人達だけじゃ、外に出るのは心配だから、
だから、ココに残ってたんですよね?」
「……私は……」
「取り合えず!」
言いよどんだ私に、オリーブさんは笑いかける。
「まずは、何か食べましょう。
真名さんがお風呂に入っている間に、
とびきりオイシイお昼を作りますから!」
そう言って、オリーフさんは、くしゃり、
と私の髪の毛を撫でてくれた。





ちゃぽん。



頭まで、ゆっくり沈み、そして息を吐く。
心地よくて、暖かい。
生まれる前は、人は、皆こうして、
液体の中に浸かっていた。
だから、こうして、人は液体の中でも呼吸できる。
本当は。

でも、きっと私は
培養液の中で育てられたから、
息が、出来ないんだ。


「…っ…ぷは…」
存外、馬鹿な事を考えながら、苦しくなった胸に酸素を入れる。


オリーブさんは、優しい。
何故だか分からないけど、優しい。
冷徹、冷血、そんな風に彼女を呼ぶ人もいるが、
…私は、彼女が好きだった。
彼女が本当のお母さんなら、どんなにいいだろう、と
おおよそ叶わない願いを持った時期もあった。

…彼女になら、この暗闇を、
吐き出せるんじゃないかと…思った。



なんて、


………無責任だ。

…勝手に、思いを寄せられて、当の本人は、
…それこそ迷惑被る。

…嫌な思いになるに、きまっている。

どろどろした、どろどろの感情なんて

………それに、私は、
ジュラハンと、メルヴィナさんが心配で
…ココに残っていたわけじゃない。



他に、……


そう、他に、私の居場所なんて、なかったから。

政府がなくなっても

皆生き生きしている。

でも、無理なんだ。


私には、


無理なんだ。




……だから、オリーブさんには、
…彼女には、私の心なんか、見せない。

きっと、……離れていってしまうから。


…きっと…


――― 7 ―――


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